yukemuriのブログ

コント(掌編小説),いろはカルタ随想、江戸川柳色は匂へ、花かるた色は匂へ、趣味の5・7・5アラカルト俳句と川柳。

新しく「江戸を見れば」265年の整理に取り組んでいます。

こんと76   カフエ・ダンチョネ  作  藤 正吾

 登場人物
◆語り手(男)
◆大木 進(72歳年金生活)
◆鈴木陽一(進の親友カフエのマスター)
◆藤田香代(町の花屋65歳、59歳の時に主人を亡くす)
◆三浦 光(客56歳55歳でリタイヤIT企業の元課長)
◆三浦俊子(客 三浦光の妻57歳)


語り手 平成20年6月15日(日曜日)の午前、梅雨の晴れ間に窓から眺める風景は湯
   けむりの中であります。


M 鶴田浩二のダンチョネ節 BG FO


語り手 カフエ・ダンチョネに顔を出すといつも数人の顔なじみがいました。今日は不思
   議と常連客は誰もいなく、大木 進が新聞に目を通しながらコーヒーとお昼の軽食
   のできるのを待っています。


陽一「もうちょっと待ってね。」
進 「時間はたっぷり、奥さんにゆっくり作るように言って、・・・ヨウちゃん、マス
  ターとしてすっかりなじんできたね。」
陽一「そう。もう10年選手になったもん。」
進 「そうやなあ。退職して12年、光陰矢の如しを実感するよ。」
陽一「それはそうと、教育界は今朝のニュースで大変なことになるよね。シンちゃんが現
  職の時の職員がいるんじゃないの。」


M 鶴田浩二のダンチョネ節 FI FO


語り手 大木 進は地元新聞の朝刊に目を落としていました。一面トップ記事に大きく
   「贈収賄容疑」「校長ら4人逮捕」「教員採用 わいろ数百万円」という見出しが
   飛び込んできて。その中に一人、大木 進が当時の校長会長として推薦書類に推薦
   のコメントを書いてハンコをついた人物がいたのです。人事異動に関しては直属の
   校長がまず推薦をして、次にその地域の校長会長が推薦をして、市の教育委員会の
   教育長の推薦で人事異動に関する手続きが形の上で整うのであります。
    12年の間に彼はここまでの役職に上り詰めていたのかと大木 進は改めて確認
   しました。
    大木進の呼び方ですが、マスターの陽一だけは小学生の時からシンちゃんと呼び
   陽一のことを進はヨウちゃんと呼び72歳を迎えました。」


SE コーヒーと軽食を運ぶ音


陽一「おまちどう。」
進 「(大きな声で)奥さん、ありがとう。」


  SE コーヒーを飲む


進 「ヨウちゃん、この藤村芳雄人事担当主幹は私が現職最後の時に本人から行政への異
  動希望が出て、推薦書を書いてハンコをついた先生なんだ。真面目でネ、子供はもと
  より父母からも絶大な人気と信望があった。教育力が抜群の申し分ない先生だった
  よ。」
陽一「どこで彼の人生が変わったのかなあ。行政に入ったことが間違いの初めかな。」
進 「先輩の生き方を見ていると人事と予算を握ったときに人柄が変わっていくようにあ
  る。人事権と予算権は人を変えるようだね。」
陽一「その点では、私もシンちゃんも人事や予算に関わりなく定年を迎えて、平凡で平穏
  な勤めを全うしたと思う。」
進 「ヨウちゃんは、最後は市の教育委員会の教育次長だったよなあ。その前は税務課の
  課長さんだったな。」
陽一「市の職員なんてのは、何でも屋で浅く広く仕事をこなしてきた。市が供養塔を経営
  するというニュースが入って、供養塔の建設委員になったので、供養塔の前で今のカ
  フエの仕事をやるチャンスが巡ってきたのよ。」
進 「ヨウちゃんは人脈が広いし、歌が上手い。市内の人で知らない人がいないくらい
  だ。供養塔の前でのカフエ・ダンチョネはいいアイデアだよ。昭和の歌が聞けて、ヨ
  ウちゃんの歌が聞ける。最高だなあ。」


SE ドアのあく音 香代が入ってくる。


陽一「いらっしゃい。香代ちゃん、今日は早いね。」
香代「マスター、モカ、お願いね。」
陽一・進 「え~え、モカ、何かあったの。」
香代「別に、何となく、モカ、なの。」
進 「そうだ。何となく、モカ、ということもある。」
香代「先生、どうしたの。」
進 「ちょっとね。」
香代「わかった。今朝の新聞ね。街中で話題になっているよ。」
進 「そうだろうなあ。いつかは問題になるだろうと思っていたことだが、こうして新聞
  記事になってみると重たいなあ。」
香代「先生もマスターも問題なく定年を迎えて、今さらながら、改めておめでとうござい
  ます。」
進 「だけどねえ、香代ちゃん、一歩間違えば私もヨウちゃんも彼らと同じことをしてい
  たかもわからないと思うと気が重い。」
香代「マスター、明るい元気の出る歌、お願い」


  M コーヒールンバ FI BG 
  SE ドアのあく音 M CO


陽一「いらっしゃいませ。・・・どうぞ。」


  SE 進の隣の席に座る。


陽一「メニューをどうぞ。」


光 「俊子さん、お昼をここで済まそうか。コーヒーはブルマンね。何にする。」
俊子「えびチャーハンお願い。」
光 「ブルマンとモカ。それにえびチャーハン二つお願いします。」
陽一「ありがとうございます。(奥に向かって大きな声で)えびチャーハン二つ。」


  SE 奥から「ハーイ」マスターのコーヒーを準備する音


  M(コーヒールンバ)FI BG  


陽一「お待ちどうさま。供養塔の見学ですか。」
光 「そうです。先祖からの墓はあるのですが、場所が辺鄙なうえに長男も次男も東京と
  千葉に家を持って、こちらには帰ってきそうにないのです。」
陽一「お子さんは二人ですか。」
光 「末っ子に娘がいます。娘に墓の守を押し付けるのもどうかと思いましてね。」
俊子「娘は今年、大学4年生でこの7月19日の教員採用試験を受けるのですが、今朝の
  新聞を見ますと親としましてとても心配です。」
陽一「そうですよね。そこに居る大木先生は元中学校の校長さんでこれからの教育界のこ
  とをとても心配してます。シンちゃんどうですかね。」
進 「何とも言えないが、今日これだけのニュースが流れたので今年は先ず不正はないで
  しょう。内輪のことで見えないことが多いので受験生も親御さんも心配でしょう。娘
  さんにお伝えください。正々堂々と真正面から取り組んでください。今年は実力を発
  揮できるチャンスです」
光・俊子 「ありがとうございます」
進 「私、大木すすむといいます。マスターだけが小さい時から、音読みでシンちゃんと
  呼び、私もマスターのことをヨウちゃんと呼びます。同級生でしかも隣同士に住んで
  いたんです。」
俊子「ここに来れば大木先生にお会いできますか。」
進 「ほとんど毎日ここにきています。午前中はここにいます。
  いつでも会いに来てください。娘さんが来られる時は、マスターのヨウちゃんに電話
  をしておいてください。陽ちゃん名刺をあげとって。」
光 「・・・鈴木陽一さん、カフエ・ダンチョネの電話がこれですね。私、三浦 光とい
  います。家内は俊子です。去年55歳でIT企業をリタイヤしましてね。隣の町で娘
  と3人暮らしです。いろいろとよろしくご指導おねがいします。」
進 「こちらこそよろしくおねがいします」


  SE コーヒーカップの音


香代「お先に・・・どうぞごゆっくり。」
陽一「香代ちゃん、玄関の花、替え取って。」
香代「ハーイ、ごちそうさまあ~。」


   M CI コーヒールンバ  FO



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